ギャスパー・ノエ監督最新作「ENTER The VOID」を見て

昨夜、新宿のシネマスクエアとうきゅうにて、ギャスパー・ノエ監督の最新作「ENTER The VOID」を見てきました。

「ENTER The VOID」http://www.enter-the-void.jp/


映画を見ていて興味深く感じた点が2点ありました。それは、
スタンリー・キューブリック監督作品「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせるSF作品だったこと
・音響効果がテクノ・デュオ<ダフト・パンク>のトーマ・バンガルテルだったこと
です。

簡単なストーリーはこんな感じです。(公式サイトより転用)
「TOKYO。あてもなく日本にやってきたオスカーは定職を持たず、日々ドラッグに溺れながら、ジャンキー仲間の紹介でディーラーをして金を稼ぎ、最愛の妹リンダを日本に呼び寄せた。だが、彼女はやがて夜の街で知り合った男マリオに誘われ、ストリップ劇場のポールダンサーとして働くようになっていた。ある晩、オスカーは警察の取り締まりを受け、銃で撃たれてしまう。彼の意識はしだいに薄れ、その魂はかつてない陶酔に包まれながら肉体から離脱した。愛するリンダと離れたくないオスカーの魂は、死を受け入れることができず、 欲望と犯罪が渦巻くTOKYOに翻弄される妹の姿を追って、夜の街をさまよい、 浮遊するのだった…。」


映画は全編通して、主人公オスカーの目線から展開していきます。もちろん、序盤でオスカーは死んでしまうため、そのほとんどは魂としてすべてを俯瞰で見る視点から展開していきます。つまり、常に「浮遊した状態」で映画が進んでいくのです。浮遊の視点は自分の生い立ち、妹と過ごした過去と、自分が死んだ後の自分の周囲の現在を目まぐるしく行き来していきます。そして、その行き来は未来へと繋がっていく。

魂となった主人公の浮遊した視点、TOKYO(歌舞伎町です)のネオンやフラッシュ・バックなどの視覚効果、生と死の問題。随所に散りばめられている「2001年宇宙の旅」へのオマージュとも考えられるシーンの効果もありますが、この映画は紛れも無いSFだと感じました。TOKYOやドラッグというのは入口でしか無い。
何より視点や視覚、それらの設定の面白さが際立っていた気がします。視覚効果が強すぎる部分もいくつかありましたが、ストーリーを知ることだけでは絶対に体感できない、実際に映像を見ることによってのみ楽しめる世界でした。そういった部分がSF色を強くしていたのかもしれません。


そして、もう一つこの映画をSF足らしめていたのが、音響効果の存在です。
上映後に調べて知ったのですが、音響効果のディレクターはテクノ・デュオ<ダフト・パンク>のトーマ・バンガルテルでした。(ダフト・パンクは、2001年前後に漫画家の松本零士が「one more time」のPVを手がけて日本でも話題になり、MTVでもよく流れていました。2006年にはSummer Sonicにも出ています)
全編を通して、インダストリアルな電子/ノイズ音楽か、ユルい低音以外ほとんど何も無いようなテクノ。時々、オルゴールで奏でた何となく物悲しいJ.S.バッハの「G線上のアリア」が流れる以外は、完全にエレクトロニック/ノイジーな音だけです。クレジットに「音楽(music)」とは明記されず「音響効果(Sound Effect Director)」と明記されるのがうなずけるほど、音は映画の中で漂うように存在し、明確な区切りや曲の終わりを持たない。音までが主人公の魂と同じく浮遊しているようでした。
それがまた、映画とバッチリ合っていてなんともいい。音楽として、音としてという以上に、映画に存在する音響としてうまいのです。(かなり爆音で音を身体で感じるようなシーンもありました)
デヴィッド・リンチの映画でも電子音やノイズは多用されていますが、リンチの音というのは音が立ち上がって聞こえる、映像以上に音を意識する瞬間が結構あり、その効果がまた面白いのですが、「ENTER The VOID」は反対で音がフィルムに溶け込んでいるような印象でした。もちろん、強烈な音やメロディーのある「G線上のアリア」もあるのですが、音のみで何かをもたらされる瞬間はほとんどなかったと思います。でも、その音が映画館に作り出す音響空間は、映画には絶対に不可欠なものでした。


こうやって昨日のことを思い出すと、「ENTER The VOID」は完全に「見る/見に行く」映画だと思います。この映画、吉祥寺バウスシアター爆音映画祭で今後絶対に上映されるはずです。そのときはもう一度見に行こうと思います。


そして、上映後(特に18:50の回。シネマスクエアとうきゅう限定ですが)、映画館を出るともう一つの楽しみが待っていました。映画の舞台も歌舞伎町で、映画館も歌舞伎町にあるので、完全に映画の世界に迷い込んだような感覚。すごかったです。