「まずいスープ」を読んで

作曲、直し、録音、ミックスとちょっとバタバタした上に夜はお酒を少々入れてしまうため、なかなか更新できていません。

先日、戌井昭人さんの「まずいスープ」を読みました。

戌井昭人「まずいスープ」(新潮社)


最近調べものばかりで小説を読むのは久しぶり。本作は短編でしたので一気に読んでしまいました。
バックパッカーと団子屋のバイトを行ったり来たりする主人公、どんな仕事をしているのか分からない父、やや能天気で酒好きの母、タバコをふかし妙に面倒見のいい女子高生のいとこ、その他どの登場人物も一風変わった印象を受けます。でも、不思議に思うのが、どの人物も不自然さを伴わないこと。
いま、このブログを書いていて気付きましたが、「まずいスープ」の感想を考えていると”妙に”という言葉が沢山浮かび上がってきます。自然に”妙な”印象の人物像、”妙に”繋がっている人たちと話。一人一人の行動や話の中で起きる出来事は、私自身が生活の中で「こう思う」とある種断定的な意見をもっているものでは”ない”ことばかりでした。主人公の人生観、家族との関係、主人公や家族を取り巻く人たちとの出来事、そのどれにも異色さを感じます。
でも、それが”妙に”心地よい。漂うような、読み手が話に自然に身を任せてしまえるような心地よさがあります。
物語にも、人の(登場人物の)人生を全て集約して見てしまったような重みはなく、この話にとり上げられた一時の断片を見ているような印象でした。この話の先にも後にも、この話に匹敵するような、あるいはそれ以上に愉快な話が存在するだろうと思わされます。でも、それはそれで機会があれば覗いてみようと、次に対する妙な期待は抱かせません。その必要もないわけです。

なんというか、ジャズや民族音楽のフリー・セッションを思い起こさせるような話だと思いました。


今月25日には戌井さん演出・脚本の「鉄割アルバトロスケット」の舞台も見に行くので、今から楽しみです。